2011年3月、あの頃、私はまだ塾の先生だった。
授業の準備をしながら事務室の椅子に座っていると、突然揺れた。
幸いにも、ものが倒れたり何かが壊れたりすることはなかったが、まちがいなく私の人生のなかでは最大級の地震だったといえる。
揺れの大きさもそうだが、揺れていた時間も長い。
いつもだったら、「ああ、地震だ」と言いながらもしばらくすると揺れがおさまる。
ところが、いつまでもいつまでも、揺れが止まらなかった。体感ではかなり長かったように感じた。
でも、大変だったのはそのあとだった。家に帰ってテレビを見たら、その被害のすごさに目を覆った。
今日は、あの頃、福島原発で何が起きていたのかが描かれた作品「Fukushima 50」の感想を書いてみたい。
作品情報
Fukuchima 50
監督:若松節朗
脚本:前川洋一
原作:門田隆将
【公式ツイッター】
若松節朗監督の代表作は、最近では「空母いぶき」。2009年に「沈まぬ太陽」で日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞している。
原作は門田隆将さんの「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」(角川文庫刊)。
出演者はとても豪華で、これでもか、これでもかというくらいに見たことがある人が出演している。
主役の伊崎利夫は佐藤浩市さんで、福島第一原発1・2号機当直長として、もっとも原子炉に近いところで指揮を取る役だ。
この2人が作品を支えたことは言うまでもない。
個人的なオススメ度
☆☆☆☆☆(☆5つ)
多少、創作部分があるとは言え、ベースは実際に福島原発で起きたこと。この出来事を風化させないためにも、なるべく大勢の人に観てもらいたい作品だと感じた。
あらすじ
マグニチュード9.0、最大震度7という巨大地震が起こした想定外の大津波が、福島第一原子力発電所(イチエフ)を襲う。
浸水により全電源を喪失したイチエフは、原子炉を冷やせない状況に陥った。このままではメルトダウンにより想像を絶する被害をもたらす。
1・2号機当直長の伊崎ら現場作業員は、原発内に残り原子炉の制御に奔走する。全体指揮を執る吉田所長は部下たちを鼓舞しながらも、状況を把握しきれていない本店や官邸からの指示に怒りをあらわにする。
しかし、現場の奮闘もむなしく事態は悪化の一途をたどり、近隣の人々は避難を余儀なくされてしまう。
官邸は、最悪の場合、被害範囲は東京を含む半径250㎞、その対象人口は約5,000万人にのぼると試算。それは東日本の壊滅を意味していた。
残された方法は“ベント”。いまだ世界で実施されたことのないこの手段は、作業員たちが体一つで原子炉内に突入し行う手作業。外部と遮断され何の情報もない中、ついに作戦は始まった。皆、避難所に残した家族を心配しながら―
簡単に言うと、
震度7で想定外の大津波が来たために制御できなくかった原発が、メルトダウンしないように、職員たちが決死の覚悟で作業する
というストーリー。
本当にあったことだから、とてもリアルな話だ。
感想
大迫力、緊迫感、そして決死の覚悟の物語。あの時あそこで何が行われていたのかをみんなが知っておくべきだろう。
現場にいた人にありがとうと言いたい
2011年3月はニュースばかり見ていた。地震や津波のことはもちろんだが、なんと言っても福島原発が気になっていた。
ニュースで見る福島原発は、どことなく遠くの出来事に感じられた。やはりテレビで見ていたからだろう。
が、こうやってあの頃の出来事がスクリーンを通して再現されると、あらためて何が起きていたのかがわかる。
福島原発で働く人々が、当直長の伊崎さんが、所長の吉田さんが、何を考え、何をしていたか、それが目の前に映っていた。
彼らがいたからこそ、日本は守られたのだ。もしあの時原子炉が崩壊し、メルトダウンが起きたら東日本は壊滅的状態で、住むこともできなかっただろう。
津波のせいで、すべての電源を失い、危険度をあらわす計器ですらロクに動かないような状況。
さらには作業をするにも真っ暗で見にくい環境。
そんななかで、彼らは命をかけて日本を守ってくれたのだ。
あのとき何が起きていたのか、ニュースでは少し聞いていたが、実際こうやって再現されたものを見ると、驚愕だった。
みなさんにありがとうと言いたい。
この出来事は語り継がれるべき
大勢の人が亡くなった東日本大震災、このことは後の世まで語り継ぐべきことだ。
多くの犠牲が出たこの出来事を教訓にして、次に大震災が起きたときは一人でも多くの人の命が救えたらいいと思う。
また、この原発についての出来事も同様だ。
今回の原発の出来事は10m以上の高さの津波など来ないだろうとたかをくくっていた人間の慢心が招いた人災だったといえる。
原発では多くの人が働いていて、その安全が保たれている。
現に、あんなに大きな地震があっても原子炉自体は全く平気だった。津波で予備の発電機が水をかぶり電源を喪失したのが今回の騒ぎの原因だ。
そしてそれは防げたはずだったのだ。
そういうことも含めて、こんなことがあったのだとみんなが後の時代の人に語っていく必要があると思う。
このことは風化させてはならない。それを思い出させてくれるとてもすばらしい作品だったと思う。
まとめ
多少の創作があったりして、作品の評価がよかったり悪かったりさまざまだ。
当直長の伊崎さんの家族の話は必要かとか、リアリティさに欠けるとか。
映画に詳しい人からしたら、ちょっと違和感ありなのかもしれないが、そうであっても私はこの作品を観てよかったと思う。
そして、あのときのことを忘れないようにしたい。