本屋大賞を受賞した作品ばかり読んでいたんだけど、最近、直木賞受賞作品も読んでみようかなという気になった。
一度小説に興味を持つと、次々と本を読みたくなるものだからね。それで直木賞作品もせめてみることに!
ところで、2020年上半期の直木賞は馳星周さんが書いたこの作品が受賞した。
私自身、馳星周さんの作品を読むのは初めて。
いったい読みやすいのか、それとほ骨太な感じなのか見当もつかない状態で読みはじめた。
でも、さすがは直木賞をとった作品だね!
とてもおもしろくて、ページをめくるスピードがあがってしまったよ。ということで、今回は「少年と犬」の感想を書いていこうと思う。
作品情報
著者
馳星周(はせせいしゅう)
1965年、北海道生まれ。
1996年「不夜城」で小説家デビュー。
翌年、この作品で吉川英治文学新人賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。
1998年、「鎮魂歌 不夜城Ⅱ」で日本推理作家協会賞を受賞。
1999年、「漂流街」で大藪春彦賞を受賞。
2020年、「少年と犬」で第163回直木賞を受賞。
馳星周さんの作品は過去5回ほど直木賞候補作を出していた。そして今年ようやく直木賞を受賞することができた。
内容紹介
2011年秋、仙台。震災で職を失った和正は、認知症の母とその母を介護する姉の生活を支えようと、犯罪まがいの仕事をしていた。
ある日和正は、コンビニで、ガリガリに痩せた野良犬を拾う。多聞という名らしいその犬は賢く、和正はすぐに魅了された。
その直後、和正はさらにギャラのいい窃盗団の運転手役の仕事を依頼され、金のために引き受けることに。
そして多聞を同行させると仕事はうまくいき、多聞は和正の「守り神」になった。
だが、多聞はいつもなぜか南の方角に顔を向けていた。多聞は何を求め、どこに行こうとしているのか……。
(Amazonより引用)
この作品は
男と犬
泥棒と犬
夫婦と犬
娼婦と犬
少年と犬
の6つの短編からなる小説である。「○○と犬」の「犬」はすべて同一の犬で名を多聞という。
多聞はある男と出会い、次に泥棒と出会い、そして夫婦と出会い・・・、というふうに次々と飼い主が変わっていくというわけだ。
そして、それぞれの飼い主に信頼され、可愛がられ、そして・・・、となっていく。
また、多聞はそれぞれの飼い主に飼われている間、常に一定の方向を向いていて、その方角をとても気にしていることがわかる。それぞれの飼い主は、「そこに飼い主がいるのか」などと推測するが、それは定かではない。
それが明かされるのはずっとあとで、そこにはある結末が待っているのであった・・・。
「少年と犬」の感想
多聞という犬と、多聞を飼う人間の物語なのだが、そこにあるさまざまな思いがとてもよく描かれていた。そして結末は泣けた。
とても読みやすく、引きこまれる作品
全体的に読みやすく、物語に引き込まれる作品だ。あっという間に読み終わってしまった。無駄な描写がないのも読みやすい要因だろう。
また、ストーリーがとてもよい。犬と人間の平凡な愛情物語だと思って読んでいたが、実はちがった。
それぞれの短編の結末が「マジか!?」という感じ。それがこの作品のラストを予想させるものなのだが、想像とはちがう結末で泣けてしまった。
文体もストーリーも大好きな作品だ。
それぞれの飼い主たちがおもしろい
この作品に出てくる飼い主たちは、それほど幸福とは言えない人たちだ。しかし多聞と出会い、心が穏やかになったり落ち着いたりして次第に癒やされていく。
多聞は関わる人たちの心を癒やしていく犬だったのだ。
いろんな人がそれぞれの事情を抱えて生きていく。傷ついたり傷つけたり、過去から逃れられなかったり後悔したり・・・、そんな人間たちの気持ちが多聞と出会って変わっていくところが読んでいて心があたたかくなる。
多聞がよい
この作品の中で、多聞の目線で書かれているところはない。すべて飼い主から見た多聞の様子が書いてある。
だが、飼い主目線の多聞の気持ちだが、こちらにも伝わってくるようだった。多聞は賢くてかわいい。賢いからこそ、人の気持ちがよくわかる犬なのだろう。多聞の心の声までしっかり聞こえそうな感じがした。
そして最後の「少年と犬」ではすごく泣けた。想像していたのとはちょっとちがう結末だったのだ。多聞って本当にいいやつだったんだなぁ。。。
満足度
ドタバタ劇というわけでもなく、それぞれの短編が感動ものというわけでもない。でも、最後まで読んで、とても気持ちがよかったし、泣ける話だった。
ということで、今回の満足度は
☆☆☆☆☆(☆5つ)
ぜひお読みください。
「少年と犬」はこちらからどうぞ!