昨今、世界では争いが絶えない。
多くの死者が出ているという報道を聞く。
国と国、あるいはある勢力と勢力が争う。
争い、そして報復と報復の繰り返しが続く。
そこに美しさはない。
こんな世界にうんざりしているなか、まど・みちおさんの詩「人間の景色」に出会った。
まど・みちお「人間の景色」
人間の景色
坂の上のポストに
手紙をだしにいき 帰りに
兄弟らしい小学生とすれちがった
笑い声をあげてる二人だったが
兄はけんめいに自転車のペダルをふみ
息をきらしつつ
小走りの弟の速度にあわせていた
ゆっくりとSの字をえがきながらに・・・
ふりかえって見とれたが
もはや思いのこすことはなかった
これこそ地球にすむ
われら人間の景色なのだ・・・
地球は美しかった
(まど・みちお「100歳詩集 逃げの一手」より)
まど・みちおさんについて
まど・みちおさんといってもピンとこないかもしれないが、童謡「ぞうさん」を作詞した詩人だ。
「ぞうさん」を知らない人はさすがにいないだろう。
そのまど・みちおさんは104歳で生涯を閉じるまで、たくさんの詩をつくった。
「ぞうさん」のほかには「やぎさんゆうびん」や「一年生になったら」、「ふしぎなポケット」が有名である。
とてもシンプルだが、実は奥深いものを感じる作品が多い。
詩の解釈
とある場所で、作者は兄弟とすれちがい、思わず見とれてしまう。
坂道を小走りで進む弟、その横に自転車をこぐ兄
ふたりの進むスピードは当然ちがうはず。
自転車に乗っている兄は弟のペースにあわせている。
坂道だから、兄も自転車をこぐのはけっこうきつい。
自転車をつかっているのに、のろいスピードで坂道をのぼるわけだから。
それを目撃した作者、
もう思い残すことがないほどの光景を見たようだ。
そしてこう言う
これこそ地球にすむ
われら人間の景色なのだ・・・
兄と弟のこの様子、これぞ「人間の景色」なのだと作者は言う。
そして最後に
地球は美しかった
と締めたのだ。
この詩の感想
この兄弟はとても微笑ましい。
これぞ兄弟愛ってやつだ。
そして、このような愛が地球上のいろんなところにあふれていることを作者は想像したことだろう。
男女の愛もあるし、親子の愛もある。
世の中にはいろんな形の愛であふれているはず。
まど・みちおさんは、それを「人間の景色」と表現し、
その景色を見て「地球は美しかった」と述べた。
人が、人に思いやりを持って接している様子は本当に美しい。
地球上が思いやりであふれていたら、地球はもっと美しいだろう。
ただ、いま地球は美しいのだろうか。
人間の景色はどうなのだろうか。
まど・みちおさんに見せられる景色は、ちょっとずつ少なくなっているような気がする。
最後に
まど・みちおさんが見た「人間の景色」、それをまぼろしで終わらせてはいけない。
まずはわたしたち一人ひとりが、日々の生活のなかで思いやりを持たなければいけないと思う。
わたしも、人間の景色をよくするために、思いやりの行動をとっていきたい。