第11回アガサ・クリスティー賞を受賞した逢坂冬馬さんのデビュー作「同士少女よ、敵を撃て」、今回はこの作品の感想を書いてみようと思う。
そもそも、私はミステリー小説を探していた。なにかおもしろいミステリー小説はないかなぁと。
本屋さんに足を運んだら、アガサ・クリスティー賞の受賞作でもあり、2022年の本屋大賞を受賞しているこの作品を見つけてしまった。
「アガサ・クリスティー賞を受賞したなら絶対におもしろいミステリーにちがいない、しかも本屋大賞だよ」と私の心は高鳴る。
そうして読んでみたら、中身は全然ミステリーではない。なんと戦争小説なのだ
だが、私はこの物語に没頭してした。一度読んだらのめり込む、そんな内容の作品なのだ。
そんなわけで、今回はこの小説の感想を書いてみたい。
「同士少女よ、敵を撃て」作品情報
著者
逢坂冬馬(あいさかとうま)
1985年埼玉県所沢市生まれ。
「同士少女よ、敵を撃て」はデビュー作。
他に「歌われなかった海賊へ」という著書がある。
2021年 「同志少女よ、敵を撃て」で第11回アガサ・クリスティー賞受賞。
2022年 同書で第166回直木三十五賞候補、2022年本屋大賞受賞。
内容
舞台は独ソ戦が激化するソ連。主人公はモスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマ。ある日突然、彼女が住む村人たちや彼女の母親がドイツ軍によって惨殺された。
セラフィマ自身も射殺される直前で、赤軍の女性兵士イリーナに救われる。
そしてイリーナに「戦いたいか、死にたいか」と問われ、イリーナが教官を務める訓練学校でスナイパーになることを決意した。母の命を奪ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を自分の目の前で焼き払ったイリーナに復讐するために。
そして、セラフィマのように家族を失い戦うことを選んだ女性スナイパーとともに過酷な訓練を行う
やがて彼女は戦うためにスターリングラードの前線へと向かうのだった・・・。
「同士少女よ、敵を撃て」の感想
戦争の最前線で銃を握る少女たち。そんな現実がかつて存在した。
第二次世界大戦中のソ連。そこで女性スナイパーたちの過酷な運命を描いた作品が「同士少女よ、敵を撃て」である。
歴史的背景をしっかりとおさえつつ、戦争という極限状態の中で揺れ動く人間心理がありありと描かれている。
その重厚な内容に私は圧倒された。
この作品の魅力は、戦争の狂気に巻き込まれた主人公の心の動きを、まるでそばで見てきたかのように描いている点にある。
戦場に立つ恐怖、命を奪うことへの葛藤、生きることの意味を問うこと、そんな描写が生々しい。
読んでいると主人公の苦しみを追体験してしまうような感覚にさえ陥ってしまうほどだ。
そして、狙撃を続けていくなかで少しずつ変化していく感情も描かれていて味わい深い。
この物語において特に印象深いのが、セラフィマと彼女をスナイパーに導いたイリーナの関係だ。
セラフィマにとって復讐の対象だったイリーナへの気持ちが、それだけではなくなっていく様子、特にラストのほうは心を打たれてしまう。
「同士少女よ、敵を撃て」は単なる戦争小説ではない。
戦争が舞台であるセラフィマという少女の戦いや、生きることの意味、そして人と人とのつながりを深く描いた作品である。
ときが経ったらもう一度読んで、内容を深く味わいたい作品である。
この小説の満足度とまとめ
☆☆☆☆☆(5点満点中5点)
独ソ戦という、私の知識が全く足りない時代背景にもかかわらず、こんなにも没頭させてくれる作品はあまりないだろう。
読み終えたあとも、余韻がすごかった。
そして、「もっと独ソ戦を勉強しよう」とか、実在する女性スナイパーであるリュドミラ・パヴリチェンコについてもっと知識を深めようと思った。
結末まで含めて満足度が高かった作品だといえる。