とある文学系YouTubeを視聴して「銀河鉄道の父」という作品を知る。
「銀河鉄道の夜」ではなく「父」。
それは、想像したとおり、宮沢賢治の父が主人公の物語だった。
YouTuberは大絶賛。それなら読むしかない。
さっそくポチり、読んでみることに。
率直に言って、読みやすいし父親の顔がありありと浮かんだ。
今回はこの物語を読んだ感想を書いてみたい。
「銀河鉄道の父」作品情報
著者
門井慶喜(かどいよしのぶ)
1971年、群馬県生まれ
2003年、第42回オール讀物推理小説新人賞を「キッドナッパー」で受賞。
2015年、「東京帝大叡古教授」が第153回直木賞候補となる。
2016年、「家康、江戸を建てる」が第155回直木賞候補となる。
同年、「マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代」で第69回日本推理作家協会賞(評論その他部門)受賞。
内容
明治29年(1896年)、岩手県花巻に生まれた宮沢賢治は、昭和8年(1933年)に亡くなるまで、主に東京と花巻を行き来しながら多数の詩や童話を創作した。
賢治の生家は祖父の代から富裕な質屋であり、長男である彼は本来なら家を継ぐ立場だが、賢治は学問の道を進み、後には教師や技師として地元に貢献しながら、創作に情熱を注ぎ続けた。
地元の名士であり、熱心な浄土真宗信者でもあった賢治の父・政次郎は、このユニークな息子をいかに育て上げたのか。
父の信念とは異なる信仰への目覚めや最愛の妹トシとの死別など、決して長くはないが紆余曲折に満ちた宮沢賢治の生涯を、父・政次郎の視点から描く、気鋭作家の意欲作。
「銀河鉄道の父」の感想
私が想像するに、勤勉でまじめで頑張り屋ってところだ。
そして、人のために尽くす人なんだろうなぁと思った。
でも、「銀河鉄道の父」に出てくる宮沢賢治は、立派というより、しょうがない人という印象のほうが強い。
子どもの頃の賢治は、「この子はこうやって天才ぶりを発揮していくんだろうなぁ」という感じ。
読むほうとしても、ほんのり安心感を胸に抱きながら読み進めることができた。
が、そのうち様子が変わってくる。
だんだん、しょうもない人間になっていくのだった。
わけのわからない商売をやる。
そのくせ、資金を出してほしい親に頼む。
突然家を飛び出し、東京で宗教活動をする。
なにひとつ親の期待通りに生きようとしないのである。
そういう賢治の様子を、父親目線で書かれているのが「銀河鉄道の父」だ。
だが、そんな息子なのに、父である政次郎の愛情が強い。
しょうもない賢治をなんだかんだ助ける親ばかぶりを随時発揮する。
政次郎はとても頑固で、大黒柱としての父の役割を果たしている。
一家の秩序を保ち、ある程度の威厳も備えている。
が、結局子どもたちのワガママには勝てない。
本当は賢治に家を継いでほしいのだが、やさしさゆえに本人の気持ちを尊重する。
ときには賢治が言うままにお金まで用意する。
一度だけでなく何度も。
ホント、そこまで甘やかすの?って感じがした。
それほど、政次郎は子どもたちに愛情を注いでいた。
これが親の気持ちなんだなぁと感じた作品だった。
★★★
あと、この物語で印象に残ったところは二つ。
一つ目は妹のトシが病気になってからの賢治。
賢治はトシが大好きだから、トシのために一生懸命童話を書く。
その様子がとてもけなげだった。
だから、トシが亡くなったあとの詩「永訣の朝」は心にグッと来た。
もう一つは、賢治が亡くなって行くときの様子。
政次郎と賢治のやりとりがとても悲しい。
どうなるかうすうすわかるんだけど、涙が出てくる。
賢治が亡くなったところで、読むのをやめたほどだった。
★★★
父親が主役だからこそ、こんな愛情たっぷりの物語になったのだろう。
仮に賢治が主役だったら、ドキュメンタリーのような作品になったにちがいない。
そういう意味で、すばらしい物語だと思う。
この作品に出会えてよかった。