小説を読むときに何を読むのか迷ったら、私は「本屋大賞」受賞作から選べばいいと思っている。
なぜなら「本屋大賞」受賞作は例外なくおもしろい。2020年の受賞作「流浪の月」だっておもしろさが半端なかった。
参考記事:「流浪の月」(凪良ゆう)のあらすじと感想:半端なことばでは説明できない内容だった
そして今回読んだ「そして、バトンは渡された」は2019年の本屋大賞受賞作だ。
表紙はけっこう地味めで、正直、外見は魅力を感じなかった。題名・作者・そして真ん中には、先に顔をつけたバトン、それがこの本の表紙だ。
この表紙で積極的に手に取ろうと思った人が多いのかは謎だったが、少なくもと私は「手に取ってよかった派」である。
ということで、今回は「そして、バトンは渡された」の感想を書いていこうと思う。
「そしてバトンは渡された」:作品情報
著者
瀬尾まいこ(せおまいこ)
1974年、大阪府生まれ。
小説家。
2001年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞。
その翌年に単行本「卵の緒」で作家デビュー。
2009年、「戸村飯店 青春100連発」で坪田譲治文学賞を受賞。
2019年、「そして、バトンは渡された」で第16回本屋大賞を受賞。
内容紹介
血の繋がらない親の間をリレーされ、四回も名字が変わった森宮優子、十七歳。だが、彼女はいつも愛されていた。身近な人が愛おしくなる、著者会心の感動作。
(Amazon「商品の説明」より引用
内容を簡単に説明するとこうなる。
主人公は森宮優子。彼女には父が3人、母が2人いる。
父・・・水戸(実の父)、泉ヶ原、森宮(現在の父)
母・・・実の母(亡くなった)、梨花
物語は、優子と森宮さんのふたり暮らしから始まる。優子が高校生活を送りながら、ところどころ昔の家族と過ごした回想シーンを挟んでいくという展開。
そして、どのようにして今の家庭になるに至ったのか、これからどうなっていくかということが描かれている。
「そして、バトンは渡された」の感想
森宮さんと優子のやりとりのおもしろさが楽しいと思いつつも、家族って何だろうなぁと考えさせられた。
なんと言っても森宮さんがおもしろい
基本、父親の森宮さんとその子である優子の暮らしの話だが、優子に対する森宮さんの話や態度がとてもおもしろい。
本当の親ではない森宮さんが、本当の親以上に優子のことを考えているのに、それがちょっとズレているところが笑いを誘う。
落ち込んだ優子に一生懸命料理をつくってあげたりするのだが、つくりすぎてしまったり、場違いなものをつくってしまったり、必要以上につくってしまったりするところなど、とにかくなんかちがう。それをちょっと迷惑だと思いつつも食べる優子も人がよかったりする。
優子のことを本当に大切にしている森宮さん
まだ梨花と結婚していた時に、森宮さんはこう言われたそうだ。
「優子ちゃんの母親になってから明日が二つになった」
「自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくる」
そして現在、森宮さんはこう思っている。
「梨花の言うとおりだった。優子ちゃんと暮らし始めて、明日はちゃんと二つになったよ。自分のと、自分のよりずっと大事な明日が、毎日やってくる。すごいよな」
優子が本当に大切にされているのがわかる。「明日が二つやってくる」という発想がすごいのに、「自分のと、自分のよりずっと大事な明日」だなんて、もしこんなことを親に言われたら、もう泣くしかない。
この世に自分より大切なものがあるとしたら、それは子どもなんだろうなぁ。理屈ではわかるのだが、こんな表現をされたらマジで感動ものだね。
家族ってなんだろうね?
この話はもちろんフィクションである。したがって、この物語に出てくる森宮さんあるいは梨花や泉ヶ原さんのように、連れ子を実の子以上にかわいがるということはあるかどうかわからない。
が、それでも家族とは何なのだろうかということは考えてしまう。
家族では血の繋がりが一番大事なのだろうか。血の繋がりがなくても人の繋がりは強くなるのだろうか。
私自身は血の繋がりは錯覚だと思っている。家族とは心の持ちようであり、自分が家族だと思ったら、その人は家族である、そう思っている。
ふだんからそう思っているのだが、物語中に出てくる森宮さんを見て確信した。きっと血はつながっていなくても家族になれるだろう。
逆に、血がつながっているはずなのに、自分の子を虐待する人もいるではないか。またはほったらかしにしている親もいるではないか。
この物語を読んで、あらためて家族というものを考えさせられた。
最後に
すごい設定の物語。ただし設定だけがすごいのではない。実に見事に父親や母親、そして子どもの様子が描かれている。
ぜひみなさんにも読んでもらいたい作品ですね!
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